シングル感想『棘』 / 山本彩

 
『棘』 / 山本彩
2019.9.4
★★★★★★★★★★

01. 棘
02. feel the night feat. Kai Takahashi (LUCKY TAPES)
03. unreachable [通常盤のみ収録]

 

 先日発売された山本彩ちゃんの2ndシングルです。今回も収録曲すべて彼女自身が作詞作曲を手掛けています。

 

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 まずは『棘』。まるでヴィジュアル系バンドのようなデカダン歌謡ハードロックナンバーで、リード曲にして今までの彼女にはなかったタイプの楽曲。最初に聴いた時は度肝抜かれました。

 

 楽曲の作風自体はいずれ着手するだろうなと想定していたものではあったけど、驚かされたのは サウンドの鳴らされ方。演奏のアグレッションが強化されており、中でもドラムの猛進が際立ってます。

 そして、これまでの彼女の楽曲は、ライブ意識のアップナンバーにせよ、聴かせる類のミドル/バラード曲にせよ、身だしなみがきちんと整ったクリアーなサウンドプロダクションだったのに対し、この曲は荒々しくアーシーな音触りで仕上げられているのが特徴。今回プロデュースを亀田師匠ではなく根岸孝旨氏が手掛けているのですが、それによって楽曲の持ち得るポテンシャルが見事に引き出されたような感じ。

 また、今回も彼女自身がアコースティックギターでレコーディングに参加していますが、ハードかつダーティーなサウンドの中で埋もれることなく、リズムと音色でしっかりと楽曲の根幹を支え 雰囲気を象っています。

 

 歌詞は、ワンパンマンばりに屈強なメンタルと揺るぎない意思を愚直なまでに直球のフレーズで以て詰め込まれています。冒頭「今日もまた一輪の花が枯れていった」のくだりは、特に前作『イチリンソウ』を意識して引っ掛けたわけではなく偶然の産物だそうですが、「お前の物差しなんぞ知らねぇ 大して興味もねぇな」「馬鹿馬鹿しい衝突いつまで続けるんだ」「笑いたけりゃどうぞ好きに笑えばいい」といったフレーズからして、少なくともパブリックイメージとしてある優等生像を崩そうと意識しているのは間違いなさそう。でもサビで「隠さなくちゃいけないような生き方などしていない」と歌っているところに彼女の生真面目さが露骨に表れてたりしますけどね。達観という感じではなく、そういった生真面目さや確固たる信念を打ち出したような内容で、ファンからしてみれば「まんま山本彩」と形容したくなるんじゃなかろうかと。

 

 特別メロディが立ってるわけではないけど(それは本人も認識してるはず)、その代わりとして、前述の歌詞と、熱情と冷涼の狭間を行き交う歌唱が強く響く、彼女ならではのロックナンバーでもあり、そして いちシンガーソングライター、いちヒューマンとしての山本彩のアイデンティファイソングでもありますね。

 

 

 

 カップリングの『feel the night feat. Kai Takahashi (LUCKY TAPES)』も今までの彼女にはなかったタイプの楽曲なのですが、予想だにしなかった シティポップ風情のチル系R&Bナンバーで タイトル曲以上に衝撃!

 

 最初に収録曲すべて彼女自身が作詞作曲を手掛けてると書きましたが、この曲に関しては厳密に言うとLUCKY TAPESの高橋海氏との共作で、プロデュースも高橋氏が手掛けています。っていうか、タイトルをご覧の通り、これは高橋氏とのコラボレーション曲で、高橋氏はラップで参加してます。最初からこの二人のコラボが決まってたわけじゃなく、タイアップ先(J-WAVE『GYAO! CLUB INTIMATE』ED曲)からのオファーがあってから共作が決まったようで、ラップでの参加は元々予定にはなく制作中に決まった事項とのこと。

 

 真夜中の都会、もっと言えば 終電がなくなった後の汐留の風景が即座に浮かんでくるようなトラックと、思わずほろ酔いしてしまいそうな甘味ある歌メロが絶品。彼女がそれを難なく歌えてることにも驚きだし、ラップ以外のメロディを彼女自身が手掛けたことにMoreびっくり。そして2コーラス目の高橋氏のラップ。ラップと歌メロが境目なく融け合うように混在した このメロウさと、隙間をするり抜けていくような滑らかさが好感触。まあ彼女ひとりでラップまで演っちゃっても問題なかったと思いますけど、ボーカルとラップで声の色調をハッキリ分けたほうがより気持ちよく聴こえるので、高橋氏の参加は最善の選択だったと思います。

 

 LUCKY TAPESの従来の楽曲よりもトラックの音数が少なかったり、この曲含めて全曲3分台の尺で収まってたりと、いろんな意味で世界のトレンドにしっかり倣ってるのがこれまた新鮮。Apple MusicやSpotifyといったストリーミングサービスで聴かれることを踏まえてこのアプローチに臨んでるとしたら かなり意識高いなと思いますが、さすがにこれは無意識かな笑。

 

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 通常版のみ収録の『unreachable』は、チームSY(ライブのサポートメンバー)がレコーディングに参加した楽曲で、プロデュースを手掛けているのはチームSYのメンバーである小名川高弘氏。

 

 こちらはフュージョン風のアレンジで仕立て上げられた背徳的ミドルアップアンバーで、前述の2曲同様 今までになかった類のナンバー。美しくも妖しげなメロディを演奏陣のプレーによって色彩や情景がより明確に具現化されており、アレンジセンスと各メンバーの演奏力で以て 美しくも毒々しい花を咲かせています。

 中でもAyasaさんのバイオリンが凄く良い。楽曲の雰囲気を流麗に象り、ドラマティックさに拍車を掛けるこのプレーの気高さたるや。パワフルなイメージが真っ先に浮かぶSATOKOさんのドラムも良いです。キメ細やかで軽快に躍動するプレーは 意外性がありながらも従来のパワフルなプレーとは違った意味でカッコよくて好印象。間奏で繰り広げられる 各メンバーの演奏バトルも聴きどころですな。

 そしてボーカルですが、これはなんといっても終盤のフェイクが山場。美しく高く突き抜けるハイトーンがとても胸のすく響きで思わず昇天してしまいそう。ボーカリストとしてまた一つグレードを上げたことが窺える一幕です。

 

 歌詞もやはり背徳的な内容で、なんか泥沼化した恋愛模様が描写された韓流ドラマっぽい詞世界。チェ・ジウや リュ・シウォンが出演した「真実」とか思い出す。そしてAメロでは「遣らずの雨」というフレーズが飛び出しますが、ファンの人ならこのフレーズを見て「あっ!」って思うことがあるかもしれませんね。これも『棘』とはまた別の意味で 彼女の優等生なイメージを自ら崩しにかかってるように思えて好印象。そして、ここでも彼女の内側に潜むキャラクター性を暗に表しているのが面白いところ。BLの沼にハマって 抜け出せないどころか むしろ率先してその沼の奥深くまで掘り下げ いち趣味として根付くまでに至った彼女の様と この曲の詞世界は どこかリンクしてるトコがあるし。ストーリーはフィクションですけど、何から何まで完全なる虚像というわけでもないようです。

 

 ということで、3曲ともかなり好きな曲で、しかもその3曲全てで攻めにかかってきてるのがさらに良かった。前作はポップスの範疇で雰囲気が異なる3曲を収録したという感じでしたが、こっちは歌謡ハードロック、R&B、フュージョンと、3曲とも別ジャンルに着手しているので、本当の意味でのバラエティ豊か。1stシングルも良かったし、これは次のアルバムにも大いに期待が持てます。

 

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