アルバム感想『α』 / 山本彩


『α』 / 山本彩
2019.12.25
★★★★★★★★★★

01. unreachable ★★★★★★★★★★
02. イチリンソウ ★★★★★★★★★★
03. 追憶の光 ★★★★★★★☆☆☆
04. feel the night feat. Kai Takahashi(LUCKY TAPES) ★★★★★★★★★★
05. 君とフィルムカメラ ★★★★★★★☆☆☆
06. TRUE BLUE ★★★★★★★★★☆
07. stay free ★★★★★★★★★☆
08. 棘 ★★★★★★★★★★
09. Are you ready? ★★★★★★★★☆☆
10. Homeward ★★★★★★★★★★
11. Larimar ★★★★★★★★★☆

 

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 NMB48を卒業してからは初となるアルバムですが、純粋にオリジナルアルバムとしては約2年2か月ぶりとなる作品。

 

 まず、過去2作との違いについて。
 一つめは全曲で彼女自身が作詞作曲を手掛けていること。まあシンガーソングライターを謳っている以上これに関しては何も特筆するようなことではないんですけども、過去2作では提供曲が半数ほどあったので一応。

 

 続いては、多数のプロデューサーを起用していること。今までは亀田師匠が実質 専任だった上に、キャリアや畑が異なるメンツを招集したことにより作風が拡張したので、これはかなり大きな相違点。ラルクの出世作『True』を想起させる変化ですな。あっちも、多くのプロデューサーを招いたことでカラフルな作品になったわけだし。

 ちなみに本作では、亀田師匠、根岸孝旨、コバタケ、寺岡呼人、トオミヨウ、高橋海(LUCKY TAPES)、大木伸夫(ACIDMAN)が各1曲ずつ、そしてMori Zentaroと チームSY(山本彩バンド)のリーダーでもある小名川高弘が各2曲ずつプロデュースを手掛けてます。

 

 ついでに言っておくと、秋元康は全くの非関与。まあ彼女のソロ作品でまともに関与したのは1stアルバム収録『疑問符』の作詞だけだし、過去2作に「総合プロデュース」という記載はありますが その1曲以外は本当にノータッチ。リリースに際してただGOサインを出してただけ。なので秋元が繰り出す手口に苦手意識を抱いてる方はその辺を気にすることなく安心してお聴きくださいまし。

 

 あとは、収録内容のコンパクトさ。これはPerfumeのくだりでも言ったことでもありますし、シングル『棘』の感想では無意識かなとか言っちゃってるんですけど、本作を通しで聴いた感じだと やっぱApple MusicやSpotifyといったストリーミングサービスでの利用を意識しているのは間違いなさそう。収録曲数が11曲で時間が43分弱と 1曲の平均時間が4分を割っている上に、いちばん長くても『君とフィルムカメラ』の4分43秒と 5分を越えてる曲が一つもない。それに、高橋海やMori Zentaroといった若手クリエイターがプロデュースした楽曲で顕著ですが明らかに音数が控えめな楽曲も少なからず存在するし。まあ日本でも去年発売のアルバムでその点を意識してる作品は多数あったんで、取り立てて言及するようなことでもないんですけど。

 

 ということで、ちょっと長くなっちまいましたが、ここから1曲ずつ軽く触れていきます。

 

 オープニングを飾るは『unreachable』。これはチームSY(山本彩バンド)がレコーディングに参加し、そのリーダーを務める小名川高弘氏がアレンジやプロデュースを手掛けた楽曲。フュージョンともラテンジャズともとれるサウンドアプローチが美しくも妖しげなメロディをより一層引き立て、なんとも毒々しい華が咲き乱れております。ダメ女の末路を思わせる韓流ドラマさながらの歌詞も楽曲の背徳的なムードに嵌まりすぎていて更によき。楽曲の雰囲気を流麗に象るAyasaさんのバイオリンや、キメ細やかで軽快に躍動するSATOKOさんのドラムも良いし、間奏で繰り広げられる 各メンバーの演奏バトルもバチバチっと火花飛ばしていることだし、演奏面の聴き応えは彼女の楽曲では過去最高レベル。つっても彩ちゃんのギター演奏はほとんど聴こえませんけど。その代わりボーカルではこれでもかってくらいに魅了してくれます。なんといっても終盤のフェイクですよね。美しく高く突き抜けるハイトーンがとても胸のすく響きで思わず昇天してしまいそう。1曲目にしていきなり強烈な楽曲を食らわせに掛かってきてます。

 

 続く『イチリンソウ』は、グループ卒業後に初めてリリースされた楽曲であり、そもそもシングル自体が初ということもあり、これが本格的なデビュー曲という感じがしますな。
 不安や孤独に苛まれる心模様と それに飲まれることなく咲き誇ろうとする力強い意思の双方が 歌詞にも歌唱にも込められた渾身の名曲すぎるミドルバラード。バンドアンサンブルにピアノやストリングスを絡めた 装飾の派手なサウンドに埋もれることなく彼女の歌唱が楽曲をグイグイ引っ張っており、それはまるで数多いるライバルアーティストの群衆を抜け出し、日本のミュージックシーンをリードしてってやろうという意気込みが反映されているかのようです(言い過ぎ)。

 

 

 アルバムに先駆けてリリースされたシングル曲『追憶の光』はコバタケプロデュースのバラード。個人的に コバタケだけには関与しないでくれと思っていたので「小林武史プロデュース」と聞いた時は不安一色だったんですけども、まあそこまで酷いことにはなってなかった笑。ベッタベタで当たり障りのないコバタケバラードではあるけど、ミスチルの『[(an imitation) blood orange]』みたいな事態は回避されてるので、これならまあアリ。

 

 『feel the night feat. Kai Takahashi (LUCKY TAPES)』はアーバンな匂いがするソウルナンバーで、彼女の作品では初となるトレンド感を纏った楽曲でもあります。つーか言ってしまえば ほぼまんまLUCKY TAPES。アレンジやプロデュース、ラップパートを高橋海氏(LUCKY TAPES)が手掛けているとは言え、楽曲の下地を彼女一人で手掛けたことに驚きだし、それを難なく歌えてることにも驚きだし、その歌メロが思わずほろ酔いしてしまいそうな甘味を有していてコレ中々。ほんで2コーラス目の高橋氏のラップ。ラップと歌メロが境目なく融け合うように混在した このメロウさと、隙間をするり抜けていくような滑らかさが好感触で。

 

 『君とフィルムカメラ』は寺岡呼人プロデュースのスウェディッシュなポップナンバーで、彼女にとって初となる亀田師匠非関与の楽曲となるわけですね。アコースティックギターを主軸としたヘルシーなサウンドや彼女のナチュラルな可愛さが滲み出た歌唱は いずれもガーリッシュでなかなか良い感じ。

 

 『TRUE BLUE』は本作のリード曲で、ACIDMANの大木伸夫氏がプロデュースを手掛けた リフ押しの爽快メロコアナンバー。さらに演奏に関してはACIDMANのメンバー3人が関与しているということもあり、サウンドはソリッドでなおかつ硬質。そうそう、山本彩ちゃんの歌でこういう曲を聴きたかったのよ!ってのがようやくココで実現したわけですけども、逆に何故今までこの手の楽曲が一度たりとも出てこなかったんやろか。そして、「本当は初めから分かってた 追いかけたのは自分の背中だってことを」「これ以上無理のその先へ進めたらきっと誰より強くなれるんだ」といった 他者ではなく自分自身を越えることを意識したアスリート気質の歌詞は、世間がイメージしている山本彩がまんま表れたような感じが。

 

 

 『stay free』はMori Zentaroプロデュース曲で、『feel the night』とはまた違った軽快なR&Bナンバー。ちなみに2コーラス目では初めて彼女自身でラップを披露してます。ちょっと90s R&Bっぽい感触もあるし、淡い感傷を含有したメロディもなんだか90sっぽい響きだったりして、個人的にはそこが旨味ポイント。情感的になりすぎず 程よく肩の力が抜けた歌唱もいいです。っていうか彩ちゃん、R&B系も普通にイケんじゃんね。如何にも「チャレンジング」って感じの試行錯誤な形跡とか特になさげだし。

 

 して『棘』。まるでヴィジュアル系バンドのようなデカダン歌謡ハードロックナンバーで、作風も然ることながら ラフで荒々しい演奏とサウンドプロダクションに驚き。アグレッション抜群なドラムの猛進も然ることながら、彼女自身によるアコースティックギターもリズムと音色でしっかりと楽曲の根幹を支え 雰囲気を象っているのが良いですな。熱情と冷涼の狭間を行き交う歌唱もそうだし、「お前の物差しなんぞ知らねぇ 大して興味もねぇな」「馬鹿馬鹿しい衝突いつまで続けるんだ」といった 鬱憤晴らしと揺るぎない意思表示を兼ねた歌詞も然りですけど、パブリックイメージとしてある優等生像に囚われてない感じも手伝ってなかなか力強い。いちシンガーソングライター、いちヒューマンとしての山本彩のアイデンティファイソングって感じがする佳曲であります。

 

 『Are you ready?』も小名川高弘氏がアレンジやプロデュースを手掛け、チームSYがレコーディングに参加したライブ意識の疾走ロックナンバー。時系列としては前述の『unreachable』よりもこっちが先なんですよね。音源で聴くと もちっとアグレッションが欲しいなと思ってしまうんですけども、ライブではその点がしっかり補強されてる…っていうかライブで真価が発揮される感じ。あと、Ayasaさんのバイオリンの効果で楽曲がだいぶ華やいでます。sumikaと近しいようでちょっと違う華やぎっぷり。

 

 『Homeward』もMori Zentaroプロデュース曲で、物憂げな雰囲気が漂うミドルR&Bナンバー。これは何と言ってもサビのファルセットでしょ。か細くならずキンキン響くこともない、安定的に綺麗で柔らかな高音で歌えてるのが凄いし、『stay free』同様 過度に情感的にならないバランス感覚がほんと絶妙。薄い霧が掛かったようなアンニュイさが程よく心を湿らせてきて、これかなり好きなんですよね。

 

 ラストの『Larimar』はトオミヨウがプロデュースを手掛けたセピア色のバラード。メロもアレンジも歌詞もやたらハートフル。むやみやたらにラブアンドピースを提唱したり大仰なアレンジに着手したりなんてことはなく、直に手の温もりを感じられる身近さを意識したようなアプローチが施されているのが良いです。てゆーか、イントロから否応なしにノスタルジーを喚起するこの手口には滅法弱いんだよなあ。そんなマザーテレサのような素振りで「ねえ耐えることに慣れないでいて」とか歌わんでくれ。瞳がうるうる溢れて止まらなくなるから。

 

 ということで、全曲好みではあるんですけど、個人的にちょっと厄介なのが 既存曲の多さ。収録曲の9割以上が新曲で構成されてた過去2作と違い、今回はシングル3枚からの選曲があまりに多く、カップリングも含めてなんと8曲も収録されてる!しかも、アルバムリリースに先駆けて本作のリード曲『TRUE BLUE』が先行配信されているので、まっさらな新曲はたったの2曲。まあイマドキ収録曲の半数が既存曲というのは大して珍しいことではありませんけども、8割以上ってのはさすがに勘弁してくれよと。律儀に全作品購入してる身としては もちっと先行の切り方なんとかならんのかと言いたくなっちまうわけです。

 

 でも、それ以外は凄くいい。前作よりも遥かにバラエティ豊かなラインナップになったし、歌唱力も段違いにアップしてるし、それに伴って歌唱の表現の幅も広がりましたからね。しかもそれがアイドルのオリジナルアルバムみたく散漫になったりせず、全曲彼女自身が作詞曲を手掛けていることもあり「都会で奮闘する一人の女性の姿を連想させる楽曲の集まり」としてトータリティが打ち出されているのが見事。まあ本人達はそこまで意識してやってないと思いますけど笑。核となっているのは彼女の歌声なので、ジャンル云々というより 歌を聴いて少しでも良いなと思ったら聴いてみるといいかも。

 

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