アルバム感想『STRAY SHEEP』 / 米津玄師


『STRAY SHEEP』 / 米津玄師
2020.8.5
★★★★★★★★★☆

01. カムパネルラ ★★★★★★★★★☆
02. Flamingo ★★★★★★★★★★
03. 感電 ★★★★★★★★★★
04. PLACEBO + 野田洋次郎 ★★★★★★★★★☆
05. パプリカ ★★★★★★★★★★
06. 馬と鹿 ★★★★★★★★★★
07. 優しい人 ★★★★★★★★★☆
08. Lemon ★★★★★★★★★☆
09. まちがいさがし ★★★★★★★★☆☆
10. ひまわり ★★★★★★★☆☆☆
11. 迷える羊 ★★★★★★★★★☆
12. Décolleté ★★★★★★★★☆☆
13. TEENAGE RIOT ★★★★★★★☆☆☆
14. 海の幽霊 ★★★★★★★★★☆
15. カナリヤ ★★★★★★★★★☆

 

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 全日本国民がろくろ首ばりに首を長くして待ち望んでいた、米さんこと米津玄師の5thアルバム。
 過去作についてはこちら(→米津玄師 アルバムレビュー)で感想を書いてます。こちらも是非ぜひ!

 

 既存曲の印象からして察しはついてましたが、過去4作とは全く作風が違います。そして、国民的アーティストというポジションに就いたからといって 人畜無害なJ-POPに収まるはずがなく、意欲的なアプローチをガンガン盛り込みながら これまで以上の求心力を有した大衆音楽に見事 仕上がっていたのも我々リスナーの予想通りにして期待以上の出来事。

 

 まず、米さんのメロディについて。目立った特徴を大雑把に挙げるなら、リズム感を意識しつつ早口で捲し立てる歌唱を要するメロディと、胎児や乳飲み子から御先祖様まで幅広い世代の琴線に触れるノスタルジックなメロディの2タイプになるかと思いますが、今回は後者のほうが圧倒的に多く、これまでよりもそのノスタルジックな色合いが濃くなってます。

 

 まあ今回は米さんの王道の一つであるガチャガチャしたポップロックが全く登場しないので、捲し立て歌唱の出番がほとんどなくなってしまったのも当然と言えば当然。
 RADWIMPSの洋次郎とコラボしたことで話題となった『PLACEBO + 野田洋次郎』も、ウィットに富んだフレーズチョイスが炸裂したガチャガチャロックに安易に手出しするはずもなく、THE 1975に負けじと 眩い80sオーラをぶっ放したソウル曲で意表を突いてきましたからね。

 

 

 てゆーか、そもそもロックナンバー自体が少なめだもんな。アーシーなミドルロック『ひまわり』、ストレートに衝動を打ち出したのが却って新鮮な直線的ロック『TEENAGE RIOT』の2つだけだし。

 

 逆に今回はブラックミュージック的なアプローチが多く、横揺れ喚起のグルーヴや 楽曲の魅力を決定づけるムードメイキングに唸らされる曲が次々と登場します。つーか、アルバム前半はマジでそんな曲ばっか。

 

 オリエンタルテイストのR&Bナンバー『カムパネルラ』は 米さんの艶やかなボーカルが舞う様が実に華麗で初っ端からウットリしてまうし、米さん史上もっともブラックフレイバーが濃厚なファンクナンバー『感電』とか 音数がこんな控えめなのにものっそく煌びやかだし、『LOSER』とはまた違ったファンキーなノリに痺れまくった。

 

 

 古風な装いの妖しげヒップホップ『Flamingo』は、サウンドメイクはもとより、江戸っ子気質な歌い回しが異彩を放ちつつもギャグに傾倒せずポップスとして成り立っているのが驚異的。Dメロなんてアクセルべったり踏んで民謡に突っ込んじゃってるやん。でもそれが癖になるし、歌舞伎役者的な色気を漂わせていて なんやかんやでカッコいいし、そもそもトラックがネチっこくて既に変態だし、米さんいよいよ何やっても色男かジェントルマンのどっちかで強行突破できるポジションにまで来やがったなと思わされた次第。タンゴの要素を取り込んだR&B『Décolleté』もなかなか変態的。

 

 

 また、今回も前作に引き続きセルフカバー曲が収録されてます(前作では『打上花火』を単独でセルフカバー)。

 2010年代最後の童謡としてすっかりお馴染みの『パプリカ』は、アレンジを大幅に変えた上でカバー。なんと、ムーンバートンと民謡のハイブリッド!ウニョウニョした奇妙な音を絡めた ムーディーでどこか不穏なイントロは 米さんが昔から得意としていた小粋な手口。そこから平歌→サビにかけて徐々に彩りが豊かになる展開が鮮やかだし、『Flamingo』とは毛色が異なる民謡さながらの歌い回しもなんだかグルーヴィーで、弾むビートとの相性も良好。原曲も好きだけど、こっちも別物として凄く良いっすね。

 

 

 して『まちがいさがし』は、ずぶ濡れ姿の菅田将暉の画が目に浮かぶ泥臭いロックバラードから打って変わり、エレクトロニカ的なアプローチを取り込んだ スタイリッシュな仕上がりに。どういうわけか『THE 20/20 EXPERIENCE』期のジャスティン・ティンバーレイクが過るイントロと、懐の深さが窺える米さんの歌いっぷりもあって、これまた原曲とは印象が大きく異なるのですが、こちらもなかなか良きかな良きかな。なんて言うと菅田将暉が小っちぇー男みたいに聞こえてしまうかもしれませんが、無論そんなことはありません、少なくとも米さんの隣に並ばない限りは。

 

 

 んで中盤は、どバラード3連チャン。特大ヒット曲『Lemon』『馬と鹿』をどう配置するんだろうと気になっていたのですが、こいつは意外。でも通し聴きすると「なるほどな」と めちゃくちゃ納得しちゃうんですよね。むしろこの並び以外あり得んだろって感じで。

 

 『馬と鹿』は、メロディが 否応なしに泣きをもよおすだけの絶大な訴求力を秘めているので、ストリングス山盛りの普遍的バラードとして仕上げても十分名曲だけど、そこにマーチ風のリズムと ウィーウィルロッキューみたく気分を高揚させるズッシリしたノリがプラスされてんのがさらに良いな。

 

 

 『優しい人』は簡潔に言うと懺悔バラード。静かでヒンヤリとした教会の中マリア像の前でひざまずきアーメンしている画が浮かぶシンプルかつナイーブなサウンドは 心を浄化するような優しさが感じられますが、窓の向こう側にいる多くの人が抱いている醜い感情を炙り出していくような歌詞は 淡々と描写されていながらも なかなかシビア。胸の中で沈殿している歪な心の塊を抉り出し 間近で見せつけることで「優しくなりたい欲」を引き摺り出すこの手口にはヤラれてもうた。米さんなりの荒療治ですかこれは。

 

 

 そして後半。
 『迷える羊』はタイトル曲にして「お狂いになられてますね」感が洗練を極めたようなラビリンスソング。
 アラビアンなアレンジや 不協和音上等とも言いたげな旋律とコードがミステリアスな雰囲気を演出。緊張感を伴った平歌から 闇を抜け開かれていくサビへ突入するこの流れは、地底を彷徨った末にスフィンクスばりの巨大な石像を発見した的なドラマティックさがあってなんだか感動的。米さんのオペラチックな歌唱もその壮大さに一役買ってます。

 

 

 『海の幽霊』はバラード曲なのですが、中盤のバラード曲とは趣が異なるサウンドアプローチにとにかく おったまげた。オーケストラルなアレンジとボーカルエディットが醸成する海底の幻想美、素晴らしすぎやしませんか?音像があまりに美しすぎて 歌詞が全く入ってきません。でも、おさえきれないこの気持ちを涙ぐみそうになりながら歌い上げてるような米さんのボーカルにはグッときたぞ。

 

 

 そしてラストの『カナリヤ』は、意図的なのか図らずもなのかBUMP OF CHICKEN感がチラつく 包容力に満ちたバラード。メロや歌詞や雰囲気でもう涙腺がゆるゆるになってまうけど、初期は「他人とは分かり合えない」「他人に理解を求めるべきではない」と閉鎖モードだった米さんが、今や絶えず他人と分かり合おうとし 変化することを肯定しようとしてる…そんな米さんの心境の変化を想うと 感慨深くてまた泣けてくるっていう、そういう曲です。世界中の誰よりきっと優しい気持ちになるとはまさにこういうことだと。よく分からんけど。

 

 

 ということで、セールス云々だけじゃなく、アルバム全体の風格までも「現代における大衆音楽の代表格」オーラに満ち溢れた作品でありますが、音楽好き以外にも広く知られている楽曲が多く収録されているにもかかわらずベスト盤っぽさがなくオリジナルアルバムとしての纏まりや絢爛ぶりが備わってるのが素晴らしいし、90sに確立されたJ-POPの王道をまんま なぞった曲が一つもないってのもまた凄い。

 『Lemon』だって王道バラードのようで 歌メロがくそムズいわ Aメロで「ウェッ」とかいうヒップホップ気取りのサンプリングボイスが挿入されてるわと 一筋縄じゃいかない仕上がりだし、大体の楽曲で大なり小なりフックやギミックが巧みに仕込まれてるし、そういうトコで米さん相変わらずだなって思ったりします。そういった緻密な手捌きや、(フレーズチョイスやメロディメイクなど)独自のセンスを一辺倒化させず活かし続ける手腕が、チープさ回避、オリジナリティ確保、ひいては米津玄師ブランドの信頼度強化に繋がっているのだなと改めて実感したのでありました。聴き始めて数日でこんなん言うのもアレだけど、過去4作よりも好きなアルバムです。

 

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